平成28年10月から短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大が実施されています。現在は適用事業者の厚生年金保険の被保険者の総数が、101人以上となることが見込まれる企業が対象です。しかし、令和6年10月からは、51人以上が対象となり、ますます社会保険の加入者が増えることが予想されます。 その一方で社会保険には加入せずに、国民年金の第3号被保険者として、引き続き配偶者の扶養に入る方もいらっしゃるのではないでしょうか。 そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、国民年金の第3号被保険者のメリット・デメリットについてご説明いたします。 目次 日本では、国内に在住する20歳以上60歳未満のすべての人が、国民年金への加入を法律で義務付けられています。厚生年金の加入者も自動的に国民年金に加入していて、国民年金の被保険者として保険料を納付することによって、年金を受け取ることが可能です。 専業主婦の方の場合、配偶者の扶養に入っているかと思いますが、個別に保険料の負担は無いため、年金はもらえないのかというと、そうではありません。国民年金では加入者を3種類に分けています。 第1号被保険者対象者:自営業者、農業者、学生、無職の方など 納付義務:本人または保険料連帯納付義務者である世帯主・配偶者のいずれかが納付する必要があります。 第2号被保険者対象者:70歳未満の会社員や公務員など 納付義務:加入する制度からまとめて国民年金に拠出金が支払われるため、厚生年金の保険料以外に保険料を負担する必要はありません。 第3号被保険者対象者:会社員や公務員など国民年金の第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満であり、かつ配偶者の年収の2分の1未満の方) 納付義務:第2号被保険者全体で負担しますので、個別に納める必要はありません。 配偶者の扶養に入っている方は、この第3号被保険者に該当します。そして、保険料を納付する必要はありません。これは、配偶者が加入する制度の第2号被保険者の保険者が集めた保険料などの一部を基礎年金拠出金として負担しているためです。そのため、第3号被保険者である期間は、保険料をご自身で納付する必要はなく、保険料納付済期間として将来の年金額に反映されます。 第3号被保険者の手続きとは?第3号被保険者になったとき、もしくはその資格を失ったときの2つの手続きがあります。 第3号被保険者になったときの手続き配偶者(第2号被保険者)に扶養されることになった場合には、第3号被保険者になります。そのため、第3号被保険者に該当する旨の届出を配偶者の勤務する会社(事業主)に提出することが必要です。(※)原則、配偶者が65 歳未満の場合に限ります。 第3号被保険者でなくなったときの手続き配偶者(第2号被保険者)が退職などにより厚生年金等の加入者でなくなった場合や、その他一定の理由(※)により配偶者の扶養から外れた場合には第1号被保険者になります。住所地の市(区)町村に第1号被保険者への種別変更届を提出することが必要です。 (※)その他一定の理由には下記のような理由があります。 ここまでの話ですと第3号被保険者にはメリットしかないように感じますが、勿論デメリットも存在します。そのメリットとデメリットをご説明させていただきます。 メリット第1号被保険者や第2号被保険者については、納付した保険料の金額によって将来受け取れる金額が決まります。一方で、第3号被保険者の場合、その配偶者が加入する制度が負担し、納めたことになるため本人は納付する必要はありません。仮に第1号被保険者の場合は月額16,520円、第2号被保険者の場合は報酬月額によって増加しますが、最低でも10,952円(※1)の負担額になります。 さらに年金だけではなく、健康保険にも加入することができるため、保険料の負担と併せて考えても、第3号被保険者になることは大きなメリットがあるでしょう。 (※1)東京都の令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表より計算 デメリット第2号被保険者の場合、老後は国民年金と厚生年金の両方を受け取ることが可能ですが、第3号被保険者の場合、国民年金しか受け取ることができません。厚生労働省の資料によると国民年金(※1)の場合は月額66,250円に対して、国民年金と厚生年金(※2)の両方の場合は月額158,232円になります。 月額で約9万円の差があることがわかります。保険料の負担はありませんが、共働きで夫婦ともに第2号被保険者の世帯に比べると受給額は少ないでしょう。さらに、第1号被保険者が加入できる国民年金基金には加入することができないため、将来受け取る年金額を増やすことが難しいのが最大のデメリットと言えるかもしれません。 (※1)令和5年度の既裁定者(68 歳以上の方)の老齢基礎年金(満額)です。 (※2)平均的な収入(平均標準報酬[賞与含む月額換算]43.9 万円)で 40 年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と老齢基礎年金・満額)の給付水準です。 まとめ厚生労働省は、従業員100人以下の企業で働くパート・アルバイトを対象に令和5年10月20日以降、収入が一時的に上がったことを事業主が証明することで、連続2回まで一時的に130万円を超えても、扶養にとどまれる取り組みを始めました。 これは、繁忙期に労働時間を延ばすなどして、一時的に130万円以上となっても事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入ることができ、パート・アルバイトで働く人は国民年金・国民健康保険の負担を回避することが可能です。しかし、この特例は健康保険等の被扶養者認定及び国民年金第3号被保険者の認定のみに係る取り扱いとなり、税金の計算をするうえでの扶養の取り扱いに関しては、通常通りとなりますのでご注意ください。 このような制度を活用して、引き続き第3号被保険者として働くのか、もしくは配偶者の扶養から外れて第2号被保険者として働くのかを考える際の判断材料にしていただきたいと思います。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士 日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com) 構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com) (责任编辑:) |